Artykuł: 可哀そうな坊&#
「可哀そうな坊様じゃ。ものに狂ったとみえ、あの大盤石を穿っていくわ。十の一も穿ち得ないで、おのれが命を終ろうものを」と、行路の人々は、市九郎の空しい努力を、悲しみ始めた。が、一年経ち二年経ち、ちょうど九年目の終りに、穴の入口より奥まで二十二間を計るまでに、掘り穿った。 樋田郷の里人は、初めて市九郎の事業の可能性に気がついた。一人の痩せた乞食僧が、九年の力でこれまで掘り穿ち得るものならば、人を増し歳月を重ねたならば、この大絶壁を穿ち貫くことも、必ずしも不思議なことではないという考えが、里人らの胸の中に銘ぜられてきた。九年前、市九郎の勧進をこぞって斥けた山国川に添う七郷の里人は、今度は自発的に開鑿の寄進に付いた。数人の石工が市九郎の事業を援けるために雇われた。もう、市九郎は孤独ではなかった。岩壁に下す多数の槌の音は、勇ましく賑やかに、洞窟の中から、もれ始めた。 掘り出し物の&#